緊急地震速報の「あたり」と「はずれ」の基準は何なのでしょうか?意外と知られていまいと思います。緊急地震速報の仕組みから、「あたり」「はずれ」の基準まで解説します。
緊急地震速報の仕組み
地震の揺れは主に2種類あります。
秒速約7kmで進むP波
秒速約4kmで進むS波
このうちP波はS波に比べて揺れが小さく「初期微動」と呼ばれています。一方、強い揺れによって大きな被害をもたらすのは後から来るS波です。みなさんも、最初カタカタと数秒揺れて、その後に大きな揺れがきた、という経験があるのではないでしょうか?
緊急地震速報はこの「伝わるのが速い小さな揺れ」を使って「伝わるのがゆっくりな大きな揺れ」を予測するシステムです。具体的には「伝わるのが速い小さな揺れ(P波)」をもとに数秒で地震の規模(マグニチュード)や震源の位置を推定し、その情報から「「伝わるのがゆっくりな大きな揺れ(S波)」が伝わる範囲を発表するものです。一般向けの緊急地震速報は最大震度5弱以上の揺れが予想される場合に誤差も考慮して震度4以上が予想される地域に発表されます。
時々、誤解している人がいますが緊急地震速報は、観測した地震波をもとに“地震発生後”に予測を出すシステムであって、地震発生の直前に発表するものではありません。
「あたり」「はずれ」の基準
「緊急地震速報が鳴ったのにあまり揺れなかった」「緊急地震速報が鳴っていないのにかなり揺れた」という経験がある人もいるかもしれません。しかし、すぐに「誤報」「はずれ」と決めつけてしまっていいのでしょうか?
実は緊急地震速報の「あたり」の範囲には幅があります。緊急地震速報で予想した震度が実際の震度と1階級以下の差であれば的中、つまり「あたり」ということになります。テレビやスマートフォンで見聞きする緊急地震速報では予想震度の発表はありませんが、震度の予想も毎回出ています。
震度5弱と予想した場合
震度4~震度5強なら的中
震度6強と予想した場合
震度6弱~震度7なら的中
ということになります。
つまり緊急地震速報が発表されたのに震度4だった、この場合も「あたり」の可能性が高いわけです。
また緊急地震速報が発表されなかったのに震度5弱だった、この場合も「あたり」の可能性があります。表向きに緊急地震速報が発表されていなくても、気象庁では計算を繰り返していて、「緊急地震速報(予報)」と呼ばれる高度利用者向けの情報も発表しています。
過去の主な誤報
2018年1月5日
午前11時3分ごろ、関東一帯に緊急地震速報が発表されました。しかし実際に観測された最大震度は3でした。この時は茨城県沖と富山県でほぼ同時に地震が発生していて、機械が富山県で観測した地震の揺れを茨城県沖で発生した地震の揺れとして処理し「茨城県沖で大きな地震が発生した」と判断したため、誤報につながりました。
出典:気象庁
2013年8月8日
午後4時56分ごろ、関東から九州の広範囲に緊急地震速報が発表されました。しかし、実際には震度1以上の地震は発生していませんでした。この誤報には緊急地震速報の仕組みが関係しています。一般向けの緊急地震速報は2か所以上で揺れを観測した場合に限り発表されますが、この時は和歌山県で発生したごく小さな地震による揺れに加えて、三重県の沖合にある海底地震計のノイズを地震の揺れとして処理したため、誤報につながりました。このノイズがかなり大きなものであったため「和歌山県(緊急地震速報では奈良県)で発生した地震で三重県の沖合で大きな揺れを観測したということはかなり大きな地震に違いない」と判断し、M7.8、最大震度7の緊急地震速報を発表したのです。
出典:気象庁
その他
この他にも東日本大震災や熊本地震の直後には誤報が急増しました。これは2018年1月5日の誤報と同じように、2つの地震を1つの地震として処理したためです。現在ではシステムが改良されこのような誤報は少なくなってきています。
また、2016年8月1日に東京湾を震源とするM9.1の巨大地震が発生したとして緊急地震速報が発表されたことを覚えている方も多いと思いますが、あれは予報であり、一般向けの緊急地震速報ではないため誤報の扱いにはなりません。予報は震度3以上の地震が発生した時に高度利用者向けに発表されるもので、一般向けの緊急地震速報とは違い、1か所でしか揺れが観測していなくても発表されます。地震計には地震波以外に、周辺で起きた事故の衝撃や雷の衝撃なども記録してしまうため、必然的に誤報が多くなります。そのため一定時間内に別の場所で揺れを観測しなければキャンセル報が出されます。この時は、あくまで高度利用者向けの誤報で、そこまで珍しいものではありませんでしたが、あまりにも規模が大きかったこと、震源が東京湾だったことで注目を集めました。
まとめ
緊急地震速報は世界で唯一、日本だけが実現した素晴らしいシステムですが、まれに外れることもあります。「なんで外れたんだ」と思うのではなく、自分の緊急時の行動を見つめなおす機会にしてみてはいかがでしょうか?